ゆとシートⅡ for DX3rd - ゆと工公式鯖

神埜 レイト - ゆとシートⅡ for DX3rd - ゆと工公式鯖

殉血ディアマーター神埜 レイトカミノ レイト

プレイヤー:スケヴェーヌ

いつか、あなたに追いつくために

年齢
外見20代前半
性別
星座
身長
176
体重
血液型
ワークス
UGN支部長D
カヴァー
霊能探偵
ブリード
トライブリード
シンドローム
ブラム=ストーカー
ウロボロス
オプショナル
サラマンダー
HP最大値
27
常備化ポイント
6
財産ポイント
0
行動値
9
戦闘移動
14
全力移動
28

経験点

消費
+36
未使用
0
フルスクラッチ作成

ライフパス

出自 18世紀、吸血鬼狩りの一族に生を受ける。彼ら一族はオーヴァードであり、その名称が伝わる以前より、異能を用いて異能ジャームを狩る者共であった。
名家の生まれ
経験 自分の命を狙い、銃口を向けてきた人間たちの屍山血河の上で一人、決意した。「もうやめてしまおう」。その日、吸血鬼狩りの一族はひっそりと姿を消した。
無為
邂逅 人を救うことを辞め、放浪の日々を送る中で彼女と出会った。それは、日本で大きな戦争が終わってから少しの頃だったろうか。自分に死にゆくを決意させた、最愛の人。
任意: 神埜カミノアリエ
覚醒 侵蝕値 生まれ持った力で、怪異ジャームから人々を守ることが使命だった。だが、常人にとって、自分も怪異のうちの一人だったのだ。
生誕 17
衝動 侵蝕値 何もかもを捨てて生きてきた。そうすることで、生き永らえた。……だが、今は。生きる意味を背負って死んでみたい。そうすれば、君に追いつけるだろうか。
吸血 17
侵蝕率基本値34

能力値

肉体2 感覚3 精神3 社会1
シンドローム1+1 シンドローム2+1 シンドローム1+2 シンドローム0+0
ワークス ワークス ワークス ワークス1
成長 成長 成長 成長
その他修正 その他修正 その他修正 その他修正
白兵 射撃5 RC 交渉1
回避 知覚 意志1 調達2
情報:UGN1

ロイス

関係 名前 感情(Posi/Nega) 属性 状態
Dロイス 地獄の覇者 プリプレイにてサラマンダーのエフェクトを3つ選択し、そのエフェクトのレベルを+2、侵蝕値を+1する。この際、Lv上限を超えても良い。
神埜カミノアリエ 純愛 劣等感 もう意識も曖昧で、病院で寝たきりの生活をしている老いた妻。だからこそ君は美しい。僕の最愛の人。
探偵事務所 傾倒 不安 もう一度、人間を守ってみよう。そう思い開いた探偵事務所。仲間たちとの日々を送る、新しい居場所。
岩本大河いわもとたいが 好奇心 不安

エフェクト

種別名称LVタイミング技能難易度対象射程侵蝕値制限
リザレクト 1 オートアクション 自動成功 自身 至近 効果参照
(LV)D点HP回復、侵蝕値上昇
ワーディング 1 オートアクション 自動成功 シーン 視界 0
非オーヴァードをエキストラ化
鮮血の奏者 1 セットアッププロセス 自動成功 単体 視界 4
使用時にLv点以下のHPを消費。そのR中対象が行う攻撃の攻撃力を+[消費したHP×3]。
先陣の火 3 セットアッププロセス 自動成功 自身 至近 2+1
そのRの間、行動値を+[Lv×5]する。1シーンに1回のみ使用可能。経験点修正:-10点]
赫き重刃 1 マイナーアクション 自動成功 自身 至近 5
使用時に所持している武器ひとつを選択し、Lv以下の任意のHPを消費する。そのシーンの間、選択した武器の攻撃力を+[消費したHP×4]。また、その武器は両手持ちになる。
原初の青:ハンドレッドガンズ 1 マイナーアクション 自動成功 自身 至近 3+1
シーンの間、以下(※アイテム武器欄参照)の武器を作成し、装備する
コンセントレイト:サラマンダー 3 メジャーアクション シンドローム 2+1
クリティカル値を-LV(下限値7)経験点修正:-10点]
氷神の悲しみ 3 メジャーアクション
リアクション
【感覚】 3+1
このエフェクトを組み合わせた判定のダイス+[Lv+1]。HPを3点消費する。経験点修正:-10点]
煉獄魔神 1 メジャーアクション シンドローム 対決 3 リミット
前提:《炎神の怒り》《氷神の悲しみ》 このエフェクトを組み合わせた判定の攻撃力+[Lv×3]。《炎神の怒り》《氷神の悲しみ》の効果でHPを消費しなくなる。
原初の赤:ギガンティックモード 1 メジャーアクション 〈白兵〉〈射撃〉 対決 範囲(選択) 武器 3+1
このエフェクトを組み合わせたエフェクトの対象を範囲(選択)にする。判定後に自分の装備している武器は全て破壊される。
原初の白:オーバーロード 1 オートアクション 自動成功 自身 至近 3+2 80%
自身が攻撃を行う命中判定の直前に使用する。その攻撃力に+[使用している武器ひとつの攻撃力]する。このエフェクトを使用したメインプロセス終了時に選択した武器は破壊される。
瀉血 1 常時 自動成功 自身 至近
汚染されたり老廃して悪くなった血液を排出し、容姿と健康を保つエフェクト。
生命治癒 1 メジャーアクション 自動成功 単体 至近
血を分け与えることで対象の傷や病を治すエフェクト。あらゆる病気や怪我に効果があるが、死人の蘇生は出来ない。このエフェクトの使用時、HPを1点失う。GMは必要を感じたら<RC>による判定を行わせても良い。
熱感知知覚 1 メジャーアクション 自動成功 自身 至近
熱を視覚として知覚するエフェクト。暗闇でも物を見ることが出来、残熱を感知して対象を追跡することが出来る。また、体温の変化から他人の体調や感情の変化をも読み取ることが出来る。GMは必要を感じたら<RC>で判定させることが出来る。

コンボ

デイウォーカー

組み合わせ
鮮血の奏者先陣の火
タイミング
技能
難易度
対象
射程
侵蝕値
7
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力

このRの間、攻撃力+[《鮮血の奏者》で消費したHP×3](サングイン適用)。また、行動値+[《先陣の火》のLv×5]。
シーン1回。

オブステイン

組み合わせ
赫き重刃原初の青:ハンドレッドガンズ
タイミング
マイナーアクション
技能
難易度
対象
射程
侵蝕値
9
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力

このシーンの間、[シルバーティア]を作成して装備する。また、その攻撃力を+[《赫き重刃》で消費したHP×4](サングイン適用)。

シルバーティア・ドロップ

組み合わせ
氷神の悲しみ煉獄魔神コンセントレイト:サラマンダー
タイミング
メジャーアクション
技能
射撃
難易度
対決
対象
単体
射程
武器
侵蝕値
10(15)
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力
100%未満
3+4
7
5
31+18+3
80%以上
3+4
7
5
31+31+18+3
100%以上
3+5
7
5
38+38+21+6

《デイウォーカー》《オブステイン》前提。
80%~《オーバーロード》使用。武器を失う。

シルバーティア・ディアレストプルーフ

組み合わせ
氷神の悲しみ煉獄魔神コンセントレイト:サラマンダー原初の赤:ギガンティックモード
タイミング
メジャーアクション
技能
射撃
難易度
対決
対象
範囲(選択)
射程
武器
侵蝕値
14(19)
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力
100%未満
3+4
7
5
31+18+3
80%以上
3+4
7
5
31+31+18+3
100%以上
3+5
7
5
38+38+21+6

《デイウォーカー》《オブステイン》前提。武器を失う。
80%~《オーバーロード》使用。

武器常備化経験点種別技能命中攻撃力ガード
射程解説
シルバーティア 射撃 〈射撃〉 [Lv×3]+4 30 《ハンドレッドガンズ》の相当品。
《原初の青:ハンドレッドガンズ》のLv参照
一般アイテム常備化経験点種別技能解説
サングイン 15 一般 ブラム=ストーカーの「任意のHPを消費する」効果を持つエフェクトの消費したHPに+5点したものとして効果を発動出来る。
要人への貸し 1 コネ 〈情報:〉 任意の<情報:>判定のダイスを+3。シナリオ中1回まで。レアアイテム。
UGN幹部 1 コネ 〈情報:UGN〉 <情報:UGN>判定のダイスを+2。レアアイテム
噂好きの友人 1 コネ 〈情報:噂話〉 <情報:噂話>判定のダイスを+2。レアアイテム
手配師 1 コネ 〈調達〉 <調達>判定のダイスを+3。この効果はシナリオ中に1回まで。レアアイテム。
情報収集チーム 2 コネ 〈情報:〉 <情報:〜〜>判定の達成値を+2。この効果はシナリオ中3回まで。レアアイテム

経験点計算

能力値 技能 エフェクト アイテム メモリー 使用総計 未使用/合計
0 10 141 15 0 166 0/166
侵蝕率効果表

現在侵蝕率:

容姿・経歴・その他メモ

プロフィール

街の一角で探偵事務所を構える、美しく女性的な顔立ちの青年。鷹揚な人物であり、大抵の事は笑って流す。
表向きには浮気調査、ペット探し、眉唾なオカルト案件まで手広く請け負う事務所だが、裏ではUGNの一支部として、レネゲイド事件の解決に携わっている。

外見上は若く見えるが、その実年齢は300を超え、オーヴァードがその名称で呼ばれる以前より存在したオーヴァードの一人。怪異狩りの血族として、ジャームと戦っていた過去を持つ。しかし、力を恐れた人間達からの迫害を受けて以降は怪異狩りを辞め、放浪の旅に出る。
旅の中、能力を用いて延命し続け、容姿を保ちながら現代まで生き延びてきた。

放浪の果てに日本に流れ着き、妻となる神埜カミノアリエと出会う。
彼女と接し、感化されたことで惰性の延命を止め、いずれ来る死を受け入れることを決意する。
そして、彼女に恥じない人間として生きるため、UGNに身を置き、再び怪異と戦う道を選んだ。

過去(ヨマンデイイ)
①Silver Tears

男は飢えていた。見窄らしい、なんの財産も持たない彼の傍にあったのは、飢えだけであった。
どうしようもない飢餓感が身体中を苛む。だが、今の自分には、力があった。飢えを満たすための力。それは金でも権力でもない、人間の理を超越した力が。
男は笑った。今はこの飢えさえ心地よかった。衝動に身を委ね、獲物を求めて街へ繰り出した。

霧の立ち込める夜の街で、男は鼻を鳴らす。先日は雨が降った。人間を超越した感覚器官を持った彼は、ぺトリコールに満ちた一帯から甘ったるい香水の匂いを嗅ぎ分ける。女だ。それも、こんなに香しい匂いをつけているのは、そこら辺の安い娼婦などではない。期待に胸を膨らませ、男は匂いの元へ駆けた。
霧の向こう、白いワンピースドレスに赤のケープを羽織った女の後ろ姿が見える。柔らかな金糸のような髪は、月の無い夜に、独り月光を浴びているかのように鮮明だった。女が歩き、それが揺れる度、誘うかのように芳香が男の鼻腔を擽る。

もう辛抱出来ない。性と食の欲求だけが自らを形作っているかのように、男は迫る。その速力は獣のそれだ。
簡単には殺さない。いつものように、捕らえて連れ帰り、何日もたっぷりと嬲り、味わうのだ。
霧を裂きながら、迫る、迫る。その生白いその首に、鋭い爪を伴った手が掛かる。……はずだった。

男の身から一瞬、重力が消える。天地が逆さまにひっくり返る。背中と後頭部を強かに打ち付け、肺の空気を間抜けな声と共に吐き出し尽くしてしまう。
何事か。飛び上がろうとした男は、胸に走った強烈な痛みに反射的に身を縮め、胸を抑える。
こつん、と硬質な感触が胸から伸びている。ナイフだ。銀色のナイフが胸に突き刺さり、その血を啜り上げていた。
悲鳴をあげる男を、その女……否、女装をした青年が冷ややかな目で見下ろしていた。

「やっとかかりましたね」
「期待していたところ大変申し訳ありませんが、死んでもらいますので…………ああ、少しばかり訊くことはありますが」

狙われていた。
男は胸に刺さったナイフを強引に引き抜き立ち上がる。激痛はあるが、人外の身である男にとって、致命傷には至らない。
全身に力を迸らせ、男は唸る。それは怪物と化した男に備わった、捕食者たる所以。現代において、ワーディングと名付けられた能力だ。
誘拐した婦女を嬲ることを好んだ男は、対象を無傷で捕らえるために、ワーディングを多用していた。
どんな実力者であろうと、たちまち意識を失うこの力を青年に放つ。
刹那、男の時が止まる。

「“同類”として忠告しておきましょうか」
「“ソレ”は無闇に使わない方が良い」
「人間相手ならともかく、“同類”にとっては、閑静な街中で大声をあげ、自分の存在を知らせているようなものだ」
「同時に、自分の程度を知らしめているのと変わりない」

応じて青年の放ったプレッシャーは、男のそれを容易く呑み込み、圧倒する。
生物としての格の違いを本能で理解させられ、その恐怖と絶望に腰を抜かし、男は崩折れた。

「余計な抵抗をしないでくれて助かりますよ、婦女連続誘拐事件の犯人さん」
「さて、あなたの隠れ家に案内してもらいましょうか」

青年が、男の肩を掴んだ。

②Of Stain

例の事件から2ヶ月。小さな袋を手に、肩を震わせて泣く老婆の前に青年は立っていた。
あの男の隠れ家には犠牲となった38名の遺品、遺骨の一部が保管されていた。男の歪んだ征服欲と収集癖から来るものだろうそれらを一つ一つ検品し、遺族縁者の元へ返すために日夜歩き回る日々を続けていた。

彼の仕事は、怪異狩り。現代においてジャームと呼ばれる者たちを秘かに狩ることを生業としている、オーヴァードの血族の末裔。この街で起こる不可解な事件は、夜闇と霧の中で始末されるのだ。
故に、遺族の感傷に付き合うことなど、彼の使命には含まれない。それでも、そうすべきだと思ったのだ。
『異端者を誅する』
『主の意から外れた者共を正す』
『その為に我らは力を授かった』
血族達は囁いた。しかし、青年にとってそのような理屈よりも、理不尽に幸福を奪われる人々を助けたいという自身の願いに身を委ねることを選んだ。

老婆は娘の指の骨を包んだ袋を胸に抱き、礼を言うこともなく扉を閉めた。去り際、その眼差しに軽蔑の色を抱いて。
老婆の家を後にする時、物陰からこちらを監視する2人組が目に映った。視線が合うと、忌々しげに痰を吐き捨て、立ち去って行く。賞金稼ぎシーフ・テイカーだ。

弱者から金も取らず事件を解決する青年の存在は、それによって食い扶持を得る彼らにとって疎ましいことこの上ない存在だ。特に、犯人と賞金稼ぎの立場を往復し、自作自演で暴利を得ようとするギャングなどにとっては、敵になる可能性さえある。もっとも、異能を持った人間の実態など想像の範疇にさえない彼らが、ジャームに対処する術など持ってはいないのだが。
いずれにせよ、ヒーローなどこの街に求められてはいない。
大方、自分の何かしらの弱みを探るために近辺をうろついているのだろう。青年はため息をひとつ、そして帰路に着いた。

“同類”。あの誘拐犯にかけた言葉が不意に蘇る。自分も、あの男と同じなのだ。いつ自分も、これまで屠ってきた者たちと同じように人々を傷付けるようになるか分からない。ましてや、この街の者たちは自分を歓迎していないのだから、こんなことを続ける意味も、意義もないというのに。
最初はただ、自分が日常を守ったという達成感と安堵だけで充分だった。しかし次第に、暗澹とした感情が澱のように溜まっていった。

良くないな。感情の一切を振り切るように、ベッド代わりのソファから起き上がり新聞を開く。
治安の悪いこの街は事件に事欠かない。それをブン屋達はよりセンセーショナルに誇張して記す。その中から、自分が関わるべき領域……怪事件を見つけ出さなければならない。それは幾人もの血が混ざり合う沼から、自分の求める型だけを掻き出すような作業だ。それでもやらなくては。なんのために?考えるな。

​───────月の無い夜。青年は港の倉庫群に赴いていた。連日の捜査の末、彼が“クロ”と定めたのは、ここ数日、近辺で発生している連続殺人事件であった。一日に一人という多すぎる頻度、加えて身元が分からないほどに激しく損壊された遺体は、人間業では考えられなかった。
恐らくは、つい最近覚醒し理性を喪失した個体。そう断定し、日夜犯人を追っていた。
犯行は決まって夜の間に、この倉庫群に死体が遺棄されている。身を晒し、向こうから仕掛けてくることを期待しながら、犯人の痕跡を探っていた。
突如、夜の静寂を切り裂く金切り声。女のものだ。電撃的に声の元へ向かう。
見れば、大柄な男に抱え込まれた女性が倉庫内へ連れ込まれて行く。脇目も振らず、青年も倉庫内に駆け込んだ。

蹲る女性を前に、男はまっすぐこちらを見据えていた。まるで、自分がここに来ることを待っていたかのように。
同時に、気付く。“異常が無い”という、“異常”に。

「あなたは…………人間……?」

目の前の男はジャームではないただの人間。気付いた瞬間、青年の肩、胸、手脚、眼球が爆ぜる。響いたのは、乾いた発砲音。状況を理解しきれぬとまに、崩れ落ちる。
倉庫内の物陰からぞろぞろと、十数名の男たちが、銃を持って姿を現し、青年を取り囲む。彼らは皆、ギャンググループの一員であった。その中には、以前見た2人組の姿もあった。
人垣を割って現れたのは、豪奢なスーツを着込んだ男……グルーブの幹部だ。自らの血の池に沈み、虫のように這う青年の頭を踏みつけ、嘲笑う。

「まだ生きてんのか、やっぱりバケモノなんだな、オマエさん」
「この街のみんなが思ってんだぜ、オマエは邪魔者だってよ」
「隠してるつもりでも、オマエがまともな人間じゃあないって噂はそこら中でされてる」
「バケモノがバケモノ退治でヒーロー気取りなんておかしなことはないよなぁ……」
「これからは俺たちが正しく街を守ってやるから、安心して死んでくれ?」

罠だった。まんまと誘い出されたのだ、自分は。
残った片目を動かし、蹲る女性に目を向ける。目が合うと彼女はびくりと肩を震わせ、怯えていた。

「気になるか?」
「この女や今までの被害者は全員賞金稼ぎ俺たちに謝礼を払えなかったろくでなし共だよ」
「人に施しを受けたのにお礼ひとつ言えないなんて良くない、全く良くないなあ」
「だからひとつ、オマエを誘き出すために“協力”して貰ったのさ」
「よりバケモノらしく、人間じゃあ思いつかねえような死に方を、俺たち皆頭捻って考えて試したんだ」
「そうしたらまんまとオマエは釣られてくれたワケだ」
「オマエさえ居なければ、連中もあんな惨い死に方しなくて済んだのに、酷い話だよなぁ全く」

言い終えた男は、用済みと言わんばかりに彼女の頭を撃ち抜いた。悲鳴をあげる間もなく、彼女の命は額に開けられた穴から血肉となってどろりと零れ落ちた。
その様に、青年は自身の心が急速に凍み付いていくのを感じていた。今まで自身の行いを正しいと信じ、つき動かす原動力であった“熱”は既に尽き、凍てついた心が、ばきり、と音を立てて割れるような感覚だった。

「じゃあコイツバラして流しとけ、そうすりゃ流石に死​───────」

男の言葉が途切れる。その頭が、一瞬のうちに巨大な水銀の雫に呑み込まれた為に。
手を雫に突っ込み、掻き出そうと藻掻く。最中に足を滑らせ転倒する。尚も雫は男の頭を覆い纏わりついたまま離れない。
血まみれの青年が立ち上がり、男に手をかざす。びくん、と男の体が跳ねると、そのまま動きを止める。青年の指の仕草に従い、水銀は男の頭から離れ、流動し、また質量をも変化させながら彼の手元へ還っていく。雫から解放された男の顔面には無数の穴が開けられ、人相の判別さえ不可能なほど損壊されていた。

馬鹿馬鹿しい。全てがもうどうでもよかった。自分とは怪物に堕ちた者たちと変わらない存在であり、故にその力で無辜の人々を護るべきだと考えていた。だが、違うのだ。常人とて同じことだ。力の大小の問題ではなく、常人さえ怪物と同じ残酷さを以て牙を剥く。なら、護る意味など何処にもないだろうに。勝手にやっていればいい。もっとも、自分たちバケモノをこの程度で殺せると思い上がっていたその浅はかさで、どこまで生き残れるものかは知らないが。

狂乱の渦に巻かれたギャング達は押っ取り刀で銃口を向け引き金を引く。青年は俯いたまま微動だにしない。再び放たれた弾丸達は、青年の手元から飛び出した水銀に全て薙ぎ払われ、甲高い衝突音と共に、天井、壁、地面、あるいは人体に突き刺さった。
乾ききった声で、呟く。

「もうやめてしまおう」

一帯に無数の断末魔が響き渡った。

③Daywalker

あれから何百年の月日が経っただろうか。血族とも、世俗とも距離を取った青年は、風に流されるように放浪の暮らしを続けていた。自身が老いない身体だと気付いたのも遠い昔のことだ。ただ生き続けている。なんのために?考えても仕方がない。

結局、この年月の中であの街は未曾有の被害にあったとか、怪異の手によって滅ぼされたとか、そのような事は一度も起こらなかった。ただ人並みの悲劇と喜劇を繰り返し、現代まで無事に存続している。やはり、自分の存在など、あってもなくても変わらなかった。ならばもう、いいじゃないか。変わらないのなら、関わる必要など、どこにもない。

青年は今、日本に身を置いていた。大きな戦争の後、ゆっくりと傷を癒しながら、成長を続けている国。外国人の流入も盛んになってきている。紛れ込むのは容易だった。

窓際の席で、ティーカップに口をつける。この喫茶店の紅茶の味は、今この街に身を置いている理由の一つだ。

「たまにはコーヒーもどうですか?常連さん」

そう話しかけて来たのは、神埜カミノアリエという名札を胸に着けた少女。黒の長髪を三つ編みに束ねた、朗らかに笑う娘。この喫茶店の従業員だ。足繁く通う内、顔を覚えられてしまった。

「結構です。冒険する気はもうないので」

安定した味を変わらず提供されること、これに勝る喜びはあるまい。それに、何かチャレンジして痛い目を見るのはもううんざりだから。

「えー……一応ウチ、コーヒーが美味しいって評判なんですよ?」

「今度は紅茶もアピールしてみてください とても美味しいので」

「そう言ってくれるのはありがたいですけど」

他愛ない会話は他の客からの呼び出しによって打ち切られる。軽く会釈して立ち去った彼女は、ぱたぱたと注文を取りに行く。
小さくため息をつく。ここの紅茶は確かに好ましいけれど、気安く会話するような相手が出来てしまったのは誤算だった。自分自身、彼女のことを疎ましく思っているわけではないのが、始末に悪い。
……やけに、彼女の向かった方向が騒がしい。視線を移せば、アリエが男性客に絡まれているのが目に入る。あれこれと話しかける男に作り笑いを浮かべながら、上手くかわそうと試みている。しばらくして、見兼ねた店主がお冷の補充と言い割り込んだことで事は済んだようだが。
以前の自分であれば、良かれと思って割り込み、余計に事を荒立てていただろうな。自嘲に口元をニヒルに歪め、再びカップに口を付けた。

日が傾く時刻、会計を済ませ店を出た時、背後から声がかかる。

「あの、常連さん」
「ちょっと良いですか……?お願いがあって」

アリエだ。既に制服を脱ぎカバンを手にしていることから退勤時間なのだろう。少し早い気もするが。
彼女の希望もあり、歩きながら話を聞くことにした。
曰く、この頃後をつけられている気がする、家の家具の配置が変わっている気がする、差出人不明の手紙が届けられていて、内容が自分への愛をびっしりと綴ったものであった等。所謂、ストーカー被害だ。警察に相談こそしたものの、具体的な解決には動いて貰えなかったという。
今既に退勤しているのも、夜道をひとりで出歩くのを避けるための店主の気遣いであるそうだ。
とはいえ、不安は拭えない。もし良ければ、家まで着いてきて貰えないかという相談だった。
もしも自分がその犯人だとは思わないのだろうかと疑問は湧いたが、特に断る理由が思いつかなかった為に付き合うことを選んだ。

「そういえば……あなたってお名前なんて言うんですか?」

「……………レイト、としておきましょうか」

「しておきましょうか?」

「お気になさらず」

他愛の無い会話をしながら、彼女の家へ向かう最中。

「……」

冷たい視線だった。冷ややかで、偏執的な殺意の色。何処からかは分からないが、確実にそれが感じ取れた。そしてそれは、この国に降りて初めての、“同類”の気配でもあった。

彼女は、思っていたより厄介な事態に置かれているのかもしれない。……でも、それが?自分になんの関係があるだろうか。もうじき家に着くという。そうしたら彼女と別れ、それきりでいい。あの喫茶店に寄るのもやめてしまえばいい。そうすれば、彼女の抱える問題は、思惑はどうあれ片付くことだろう。どうせ自分が関わったところで、何も変わらないのだから​───────。

「ここまでありがとうございました、レイトさん」
「お店にもまた来てくださいね、私、待ってますから」

翌週。青年レイトは喫茶店の、いつもの席に腰掛けていた。なんのために?……この紅茶を手放すのが惜しいからだ。きっとそうだ。
眉間に皺を寄せるレイトの席に、紅茶と、もう1杯のコーヒーが置かれる。

「先日のお礼です、是非召し上がってください」

微笑みを湛えたアリエが立っていた。

「僕は紅茶派だと」

「せっかくですし飲んでみてくださいよ、私の奢りですから!ほらほら……」

「……」

ふわりと立ち上る湯気に乗ったアロマが鼻腔を擽る。軽く息をふきかけ、マグカップを口に運ぶ。

「…………まぁ、悪くないんじゃないでしょうか」

思っていたより、美味しいな。紙ナプキンで唇を拭く仕草で、綻びそうになる口元を隠す。

「ですよね!良かった……」
「実はですね、オーナーに豆の挽き方や入れ方、習い始めたんです」
「最近ようやく私が作ったのを出していいよって言われて、だから飲んでみて欲しかったんですよ」

「そうだったんですか」
「それより、この頃はどうです?例のストーカーについて​───────」

素気無く断り続けてきた過去が思い起こされ、胸にちくりとしたものが過ぎる。彼女といると、調子が狂う。妙な気恥しさから、話題を変えにかかるものの、他の席の客からの呼び出しがかかり、会話は中断される。

ベルを使わずわざわざ声で呼びつけたのは、以前彼女に絡んでいた男性客だ。不機嫌そうな態度を隠そうともしない。
アリエは表情に微かな怯えを滲ませながらも、笑顔を作り、男の元へ向かう。
彼の席には既にドリンクとスイーツが並んでおり、わざわざなんのために呼んだのかと思いきや、お冷が減っているのに補充しないのかといちゃもんをつけ始めた。そのコップには、まだ半分は残っているというのに。
まあ、またすぐに店長が助けに入るだろうと、視線を巡らせる。……ちょうど団体客が帰宅するタイミングで、しかも一人一人、別々に会計をしているところだった。あれではしばらくレジから動けまい。可哀想ではあるが、アリエにはひとりで切り抜けてもらうしかないだろう。
視線を戻す。困りきった表情の彼女と、不意に目が合う。合ってしまった。その瞳は、今にも泣き出してしまいそうに揺れていて。

「………………………」

ため息をついた。

帰路。レイトはまたも、アリエとそれを共にしていた。
結局あの場では、レイトが二人の間に割って入り仲裁することになったのだった。
何とか丸く収まりはしたが、まったく、彼女が近くにいると自分が自分でなくなるようだと、内心で頭を抱えていた。帰路を共にすることを提案したのも、レイトだ。仲裁に入った際、彼は“2つの確信”を得た。そして、この件をずるずると長引かせるよりも、いっそ一気に解決した方が安全だろうと判断したためである。
別に彼女の事が心配になったからでは断じてない。決して。……そう自分に言い聞かせつつ、少女と歩幅を同じくする。夕日がふたつの影を、映し出していた。

「なんでだよ……アリエちゃん?」

2人に向かう男が1人。夕日を浴びて伸びた影が、わなわなと揺らめく。震える声でアリエを問い詰めるのは、あの男性客だ。
レイトに驚きはなかった。この男がストーカー犯であり、そして“同類”であることを、店内で接触した際に見抜いていたからだ。

冷ややかな目線のレイトとは対照的に、男は興奮し、自分を抑えるのも限界の様子だった。アリエは震え、レイトの後ろに半身を隠す。それが、男をより怒らせることになるとも知らずに。

「なんで……なんでそいつばっかり!?」
「俺……俺だって……君がす、す、好きで……」

やはり、事を急いで正解だった。彼は確かに正気とは言い難いが、まだ“化物”に堕ちてはいない。興奮して冷静ではないが、ほんの僅かに理性を保っている。そうでなければ、店内で仲裁に入った際、大人しく退きはしなかっただろう。抑えが効かず、暴れだしたはずだ。
事も無げに、黙して状況を判断しているレイトの態度は、男を煽った。

「す、す、スカシやがって!オマエさえいなければ!!」

叫びと共に、男の全身から電撃が迸る。完全にコントロールが出来ていない。このままではアリエまでもが巻き込まれる。
反射的に右腕を差し出す。同時に放出した水銀を鋭く硬め展開する。無作為無軌道に奔った電撃の全ては、避雷針と化した銀の棘を伝い、レイトの右腕に集まり、爆ぜる。

「ッ​───────!」

これほどの痛みを覚えるのは、100年ぶり……では効かないだろう。右腕は電熱によって炭化し、肉が弾けた部位からは断裂した筋繊維がだらしなく垂れ、また白っぽいものが露出している。骨だ。

「​───────​───────!」

息を飲む声。その出処は背後のアリエだけではない、男からも。
彼は口をぱくぱくとさせ、足を震えさせながら自身の凶行を理解し、怯えていた。
やはり、彼はまだ“化物”ではないのだな。レイトは爆ぜた右腕を庇いながら、確信する。
これほどの威力を放ったことは今までなかったのだろう。相手に大怪我をさせるつもりもなかった。ただ、異能に目覚めた全能感と、自分への嫉妬心でタガが外れかけていただけの、歴とした人の心を持った存在だ。

「………………」

背後のアリエをちらと見やる。彼女は震え、涙を流していた。無理もない。こんな光景が現実のものとは到底思えないだろう。

「ああ、気にしないでください」
「僕は、“同類”ですから、この程度の傷であれば…………っと」

右腕に集中する。筋繊維はひとりでに動き出し、再び繋がる。肉の断面が蠢き、少しずつ傷を塞いでいく。黒ずんだ皮膚や肉はボロボロと剥がれ落ちると、その下から、痕ひとつ無い皮膚が姿を現した。

「ええ、僕も人間では無いのです」
「…………君、相手が僕で良かったですね?でなければ、確実に殺していましたよ」
「そのつもりでなかったというならその力、確実に制御出来るまでは隠しておくことです」
「その良心の呵責こそ、君を最後に人間たらしめるよすがなのですから、努努、忘れないことです」

警告され、男は足をばたつかせながら逃げていく。彼に関してはひとまず解決だろう。後は…………

少女に向き直る。名残惜しいが、もうお別れだ。

「さようなら、アリエさん」
「見ての通り僕は化物 あなたを騙していたんです」
「本来なら、人間と関わるつもりはなかったのに、どうもあなたと居ると調子が狂いますね」
「……あなたのコーヒー、美味しかったですよ」
「…………では」

立ち去ろうとする腕を、アリエが掴む。

「待って、ください」
「まだお礼、言えてないです」
「それに……化物とか、人間じゃないとか、関係無いじゃないですか……」
「レイトさんはうちの常連さんで、私のことを守ってくれた親切な人です……!」
「だから、そんな寂しそうな目を、しないでください」

寂しそうな目、だって?その言葉にレイトは硬直する。

「私、初めて会った時からずっと思ってました」
「失礼ですけど……寂しそうな人だなって」
「迷子になった子みたいで、放っておきたくなかったんです」
「だから、この手を、まだ離さないでください……」
「また、迷ってしまうじゃないですか……!」

迷子。僕が?頭を揺すられたような衝撃だった。自分は、彼女にとってそんな風に見えていたのか、と。

「私、またお店で待ってますから!あなたが来てくれるの、ずっと待ってます!」
「今日のこと誰にも言いませんし!」
「だからひとりぼっちになろうとなんてしないでください!」
「助けてくれて、ありがとうございました」

早口で捲し立てる彼女は、暖かな日のように見えた。自身の中で凍りついていた何かが、溶けるような、そんな感覚がした。

「……ふふっ」
「ええ、また今度」

こんな風に笑ったのは、300年ぶりだったろうか。

④Dearest Proof

柄にもなく、落ち着かない。アパートの一室で、そわそわと立ってみたり座ってみたり、歩き回ってみたり。ポケットにしまい込んだ小さな箱を、指先で弄りながら、青年は、愛する人の帰宅を待ち侘びていた。

あの夕暮れの出来事から3年の月日が流れた。あれから幾度も交流を重ねた2人は、遂には想いをも重ね合い、住宅街の小さなアパートで同棲していた。
そして、今日。レイトは大きな決断をするに至った。
彼女に結婚を申し込む。そして、『共に永遠を生きてもらう』。

自分が何故老いないのか、それは異能を用い、肉体の老い、劣化の全てを古い血液と共に洗い流しているからだ。そうして残った自分の血液には、生命の傷や状態を癒す力がある。
故にアリエには、自分の血液を受け入れてもらい、共に不死者ノスフェラトゥとして生き永らえて貰いたいと願っていた。
こういうのもなんだが、アリエと自分は深く愛し合っている。彼女からの承諾には、確信に近いものがあった。それでも、どうしても緊張してしまうというのが人情だろう。
誰に向けたものでも無い言い訳を頭の中でぐるぐるとかき混ぜながら、アリエの帰宅を待ち侘びていた。
かちゃり。扉の鍵が開く音がした。

「お断りします」

「​───────​───────​───────はい?」

聞き間違いだろうか。それか夢か。ああ、もしくは、あれだ。物々しい表現に、少々怖がらせてしまったのやもしれない。もう一度、きちんと説明しなくては。きっと分かってもらえる。

「お断りします」

「なんでですか!?」

何度説得しても、毅然とした態度で拒否される。彼女に差し出した小さな箱……婚約指輪を、力無くポケットに戻そうとするレイトの手を、アリエの手が制した。

「こちらはちゃんと頂きます」
「私が断ったのは、その永遠に生きるという部分だけですから」
「末永くよろしくお願いしますね」

微笑みと共に答えるアリエ。本来なら幸福の絶頂に至るべき返答に、しかしレイトの脳内はぐちゃぐちゃにかき乱されていた。

「どうして結婚は良くて一緒に生きるのはダメなんです……」
「それじゃああなたは僕を置いて早々に亡くなってしまう……そんなの、全然末永くなんてないじゃないですか……」

「いいえ、ちゃんと永いですよ」
「一瞬一瞬を大切に生きていけたなら、十分過ぎるほどの時間が私たちにはあるはずです」

「嘘です、足りません」
「アリエ、あなただけなんです」
「あなただけが、僕の孤独を見抜いてくれた、僕を想ってくれた」
「また僕を独りにするんですか」

そうだ、あなたは言った。迷子のような人だと僕を喩えた。その上で、僕に寄り添ってくれた。
そんなあなたがどうして僕を捨てる様なことを言うんだ。

「いいえ、しませんよ」

「あなたが望まずとも、そうなってしまう」

「いいえ、なりません」
「だってこの世に、私とあなたしか居ない訳ではないのですから」

「あなたを喪った後、忘れて他の人間と幸せになどなれるものか」

「何も、新しい恋を見つけて再婚して、とは言っていません」
「友達や、仲間……そうした繋がりをもっと沢山紡ぎ続けていけば、孤独になることはないでしょう?」
「あなたは私のこと、ずっと特別だと言ってくれましたね」
「嬉しかったですけど、あなたはひとつ勘違いをしていると思うんです」
「私は、何処にでもいる普通の人間ですよ」

それから言い争いは2時間にも及んだ。互いに一歩も引かない主張のぶつかり合いは、果たして、延長戦の形になっていく。そうして2人の間には、ひとつの取り決めがなされた。『いつか必ず、あなたを諦めさせる』と。
栄えある婚約記念日は、同時に、末永い夫婦喧嘩の始まりの日になったのだった。

「おや、アリエ」
「お疲れですか?一杯いきます?血」

「いきません」
「それより家事をしてくれた方が嬉しいですね」

「はい……」

それは、黄金のような日々だった。

「……アリエ、あなた……随分短くしたのですね、髪」

「ええ、もう三つ編みって歳でもなくなりましたから」

「…………そうですか」

「名残惜しいですか?……なら、代わりにあなたがしてみます?」
「ちょうど同じくらい長いですし、きっとお似合いですよ」
「やり方も、教えてあげますから」

「…………ええ、お願いします」

「さぁ、鏡の前へずずいと」
「頑張らないと、覚え切る前に私、寿命が来ちゃうかもしれないですよ?」

「縁起でもないことを言わないで欲しいですね」

いつからか、気付いていた。

「…………綺麗な桜ですね、あなた」

「ええ、何十年経っても、この桜だけは変わりませんね」

「ふふ、あと何回見られるかしら……」
「もしかしたら、あの花が全て散る頃には、私、もう亡くなってしまうかも」

「わかりました」

「え?……ちょっと?」
「ああっ、木に血を吸わせようとしないでください、あなた!だ、誰かー!主人を止めてください!」

アリエ、あなたは、ずっと。

「………………聴こえてますか、アリエ?」

「………………」

もう、曖昧になった彼女の意識。呼びかけても、反応があることは稀だ。それでも、青年は変わらず語りかける。その手を優しく握りながら、今日は何があった、明日は何をしようかと、未来の話を続けるのだ。

「僕はね、ずっと……気付いていたんです」
「けれど気恥ずかしくて、負けを認めたくなくて、こんなにも時間がかかってしまった」
「しわくちゃのお婆さんになってしまっても、あなたはずっと綺麗だってことを」
「……むしろ、今だからこそ、美しいんです」
「それはあなたが、限られた命を懸命に生き抜いてきたから」

そうだ、懸命に生きる人々は美しい。300年前から、知っていたことだ。
知っていながら、見ないフリをしていた。
彼らのように生きる覚悟を失い、凍てついた心で、限りある命の流れを外れ、ただ傍観者として生きることを選んだ自分に、勝てるはずがなかったのだ。

「僕の負け、ですね」
「ありがとう、僕の最愛の人」
「あなたのお陰で、遠い昔に置き忘れたものを思い出せました」

だからこそ守りたかったのだ。例え誰にも望まれなくとも、感謝されなくとも、化物と謗られようとも、それでも尚守る価値があったはずなのだ。
随分と時間がかかってしまった。それでもまだ、間に合うだろうか。

「僕、新しく始めようかと思っていることがあるんですよ」
「聞いてくれますか」

風の噂で聞いたことがある。UGNという、怪異から秩序を守る、怪異狩りの組織が出来たと。
……今度は仲間を作ってみるのもいいかもしれない。そう思ったのだ。

「それから、もうやめることにしました、長生き」
「僕もちゃんと生き直して、あなたのような人になりたいから」

きっと自分が生き永らえてきたのは、彼女と出逢うためだったのだろう。そう思うようになった。
もう充分だ。止めてしまった時計の針を、もう一度動かそう。

「ふふ、天国のあなたをあまり待たせすぎてもいけませんからね」
「……見ていてくださいね、アリエ」
「あなたの夫が、もう一度ヒーローになるところを」

かくして、300余年の旅は幕を閉じた。青年は、ただ一人の人間として、再び歩み出す。なんのためにかなど決まっている。最愛の人に追いつくために。

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