アスター・ライア
プレイヤー:マヨネズ
「次は、星になれるといいね」
- 種族
- リカント
- 年齢
- 14
- 性別
- 男
- 種族特徴
- [暗視(獣変貌)][獣変貌]
- 生まれ
- 練体士
- 信仰
- “導きの星神”ハルーラ
- ランク
- ―
- 穢れ
- 0
- 技
- 10
- 体
- 8
- 心
- 7
- A
- 6
- B
- 8
- C
- 10
- D
- 8
- E
- 7
- F
- 5
- 成長
- 1
- 成長
- 0
- 成長
- 1
- 成長
- 0
- 成長
- 0
- 成長
- 1
- 器用度
- 17
- 敏捷度
- 18
- 筋力
- 19
- 生命力
- 16
- 知力
- 14
- 精神力
- 13
- 増強
- 1
- 増強
- 増強
- 2
- 増強
- 増強
- 増強
- 器用度
- 3
- 敏捷度
- 3
- 筋力
- 3
- 生命力
- 2
- 知力
- 2
- 精神力
- 2
- 生命抵抗力
- 5
- 精神抵抗力
- 5
- HP
- 25
- MP
- 13
- 冒険者レベル
- 3
経験点
- 使用
- 6,500
- 残り
- 750
- 総計
- 7,250
技能
- フェンサー
- 3
- スカウト
- 3
- エンハンサー
- 1
- アルケミスト
- 1
- ダークハンター
- 1
一般技能 合計レベル:3
- 墓守
- 1
- 牧童
- 2
戦闘特技
- 《両手利き》
- 《武器習熟A/ソード》
練技
- [補]【キャッツアイ】
賦術
- [補]【ヒールスプレー】
操気
- [補]【念縛術Ⅰ】
判定パッケージ
スカウト| 技巧
|
| 6
| 運動
|
| 6
| 観察
|
| 5
| |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アルケミスト| 知識
|
| 3
| | ||||||
ダークハンター| 知識
|
| 3
| |
- 魔物知識
- 3
- 先制力
- 6
- 制限移動
- 3 m
- 移動力
- 18 m
- 全力移動
- 54 m
言語
| 会話 | 読文 | |
|---|---|---|
| 交易共通語 | ○ | ○ |
| リカント語 | ○ | ○ |
| 魔動機文明語 | ○ | ○ |
賦術/操気
| 理力 | 賦術/操気 基準値 | ダメージ 上昇効果 | 専用 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アルケミスト| 賦術
| ―
| 3
| ―
|
| ダークハンター | 操気
| 3
| 3
| +0
|
| |
| 技能・特技 | 必筋 上限 | 命中力 | C値 | 追加D | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
フェンサー| 11
| 6
| ―
| -1
| 6
| 《武器習熟A/ソード》
| ―
| ―
| ―
| ―
| 1
| |
| 武器 | 用法 | 必筋 | 命中力 | 威力 | C値 | 追加D | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
〈マンゴーシュ〉
| 1H | 6 | -2=| 6
| 10
| 7
|
回避+1
| |
〈サーベル〉
| 1H | 10 | -2=| 10
| 10
| 7
|
| |
| 技能・特技 | 必筋 上限 | 回避力 | 防護点 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
フェンサー| 11
| 6
| ―
| 〈マンゴーシュ〉 |
―
| +1
| ―
| |
| 防具 | 必筋 | 回避力 | 防護点 | 備考 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 鎧 | 〈ソフトレザー〉 | 7 | ― | 3 | |
| 合計:フェンサー/すべての防具・効果 | 7 | 3 | |||
| 装飾品 | 効果 | |
|---|---|---|
| 背中 | 〈ハーフマント(外套付き)〉 | 黒いマント。既にボロボロになっている。 |
| 右手 | 〈巧みの指輪〉 | 器用度+1 緑の宝石が煌めく指輪。 破壊時、器用度+13 |
| 左手 | 〈スマルティエの怪力の腕輪〉 | 筋力+2 赤く宝石が煌めく腕輪。壊せない。 |
| 腰 | 〈アルケミーキット〉 | 賦術を使用できる道具。 |
- 所持金
- 1,248 G
- 預金/借金
- G
所持品
◇どうぐ袋《消耗品》
| 名称 | 内容 | 個数 |
|---|---|---|
| 救命草 | HPをK[10]回復 | 3 |
| 魔香草 | MPをK[0]回復 | 3 |
| ハニーレッドジャム | MPをK[0]回復 | 3 |
| 《3点》魔晶石 | MPを《3点》肩代わり | 0 |
| アビスシャード | 黒い石。A強化に使用 | 2 |
| 龍樹の秘薬 | HPを1上昇 | 2 |
◇そうび袋《武器・防具》
武器
〈ハンドアックス〉
売却済み
〈ハンドアックス〉
売却済み
防具
E.〈ソフトレザー〉
◇そうび袋《装飾品》
E.〈ハーフマント(外套付き)〉
E.〈巧みの指輪〉
E.〈スマルティエの怪力の腕輪〉
E.〈アルケミーキット〉
◇どうぐ袋《生活用品》
〈羽ペン〉 この街に来て購入。日記を書くのに使う。
◇冒険者道具
〈スカウト用ツール〉
〈冒険者セット〉
非常食(1週間分)*2
◇だいじなもの
☆古ぼけた日記帳 黒い革装丁の古びた手帳。表紙と最初の数ページには、拭いきれない赤黒い血痕がこびりついている。
☆リビルド券[2月当初]*1
マテリアルカード
| B | A | S | SS | |
|---|---|---|---|---|
| 緑 | 10 | 2 |
- 名誉点
- 44
- ランク
- ―
名誉アイテム
| 点数 |
|---|
容姿・経歴・その他メモ
◆プロフィール
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 名 前 | アスター・ライア | Aster Rier |
| 年 齢 | 14歳 | 今年成人予定 |
| 身 長 | 142cm | |
| 体 重 | 45kg | |
| 出 身 | ドーデン地方 | とある事情で村を出た |
| 誕生日 | 8月7日 | |
| 性 格 | おとなしくて臆病 | 元は活発な少年だった |
| 好 き | 兄/星/暖かいスープ | |
| 嫌 い | 自分 | |
| 一人称 | ボク | |
| 二人称 | キミ、あなた | |
◆キャラの基本設定
一人称はボク。誰に対しても少し丁寧で、どこか他人行儀な敬語を使う。
基本的に自己肯定感が低く、褒められると居心地が悪そうにする。
唯一の家族だった兄を失い、その形見である日記を埋めることを生き甲斐にしている。
◆経歴詳細(アスターが冒険に出るまで)
夜道を歩きながら、ボクは空を見上げた。
星が綺麗だった。兄さんと一緒に見上げたかった星空。
でも、隣にはもう誰もいない。
嘆くことも、もう出来ない。
ボクは、どうしようもなく孤独だった。
【前日譚】嘘つきの狼
1
村の広場のベンチ。そこに、いつものように腕を組んでいる男の背中があった。
村の自警団長兼用心棒、ギャレックだ。
使い古された革鎧はあちこち傷だらけで、腰に差した剣だけが、彼がかつて戦場にいたことを物語っている。けれど今は、昼間から安酒の臭いを漂わせ、不機嫌そうな唸り声をあげて船を漕いでいた。
ボクは忍び足で近づき、彼の耳元で思い切り息を吸い込んだ。
「――蛮族だぞーーーーッ!!!」
「ッ!? どこだァッ!!」
ギャレックの反応は劇的だった。
弾かれたように飛び起き、手元の剣を半分ほど引き抜く。その顔は蒼白で、目は血走っていた。
けれど、目の前にいるのが、腹を抱えて笑っているボクだと気づくと――その顔は、瞬時に赤鬼のように変わった。
「こんの……クソガキ……ッ! テメェ! 待ちやがれ!!」
「うわーーーーっ!!」
ボクは地面を蹴った。風そのものになったように、ボクの体は軽やかに広場を駆け抜ける。
そろそろ中年と呼ばれそうな年齢で、しかも酒浸りのギャレックが追いつけるはずもなかった。
「ハァ、ハァ……。くそっ、覚えてろよ嘘つき小僧め……!!」
背後から聞こえる怒号も、ボクには負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
ギャレックが追いかけてこなくなったのを確認して、ボクは足を緩める。
「あははっ……! ギャレック、ボクが脅かすといっつも驚くんだもの。楽しいなぁ……」
息を整えながら、くすりと笑う。
ギャレックは口が悪い。「あっち行け」とか「化け物」とか、意地悪なことばかり言う。
それでも、ボクがイタズラを仕掛ければ、こうして本気で追いかけてきてくれる。
――無視されるより、ずっといい。
毎日毎日の追いかけっこ。
……これって、もう友達って呼んでもいいんじゃないかな?
「友達、かぁ……」
くるりと辺りを見渡す。誰もいない。
この村には、ボクと同じくらいの子供がいない。いるのはキャストル兄さんだけだ。
村のみんなは優しいけれど、一緒に駆けっこをしてくれるわけじゃないし。
「っと、いけない。兄さんに頼まれてたんだった」
今日は大事な日なのだ。遊び呆けている場合じゃない。
ボクは村の通りを駆け抜けた。
通りの左右に並ぶ家は、どれもこれもボロボロだ。
隙間風を防ぐための板が打ち付けられていたり、屋根が苔むしていたり。
ここは「最果ての掃き溜め」なんて呼ばれる、捨てられた人たちの村。
「お、アスター。またギャレックをからかったのか?」
「ほどほどにしとかねぇと、雷が落ちるぞー」
家の軒先で日向ぼっこをしているお爺ちゃんたちが、シワだらけの顔で笑いかけてくる。
ボクは「へっちゃらだよ!」と手を振り返して、小さな鍛冶屋へ飛び込んだ。
「おーい、ハンクスおじさん! お願いしてたアレ、できてる?」
「おう、アスターか。できてるぞ、特注品だ」
カンカン、と鉄を打つ音が響く鍛冶屋。
煤で汚れた顔を拭いながら、ハンクスおじさんが渡してくれたのは、ピカピカに輝くお玉だった。
「わぁ……! すごい、顔が映るくらいピカピカだ!」
「へへっ、礼には及ばんよ。本当は農具の修理が山積みなんだが、まぁ、今日は特別だ。お前の兄ちゃん、腕が細ぇからなぁ。軽くて丈夫な合金で作っておいたぞ」
兄さんは体が弱くて、重い鉄鍋や調理器具を扱うのが苦手だ。
だから、これはボクから兄さんへのプレゼント。受け取ったお玉は、見た目よりもずっと軽くて、ボクの手にもしっくりと馴染んだ。
「ありがとうおじさん! これなら兄さんも疲れないや!」
お玉を大事に抱えて、お次は村一番のパン屋へ。
近づくだけで、焼き立てのパンの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。世界で一番幸せな匂いだ。
「あらアスターちゃん。神父様のお祝い用ね? 特別に……じゃん!木苺のジャムもおまけしておくわ!」
アンナおばさまが、小瓶をこっそりとカゴに入れてウインクした。
こんな砂糖たっぷりのジャム、この村じゃ滅多に手に入らない高級品だ。
「えっ、いいの!?こんなに高そうなのに……?」
「ふふ、みんなには内緒よ。……いっぱい食べて、大きくなるのよ」
「うん! ありがとうアンナおばさま!」
今日はヨアヒム神父様の誕生日だ。
この村でボクたちを受け入れ、育ててくれたお父さんのような人。
今夜は兄さんがこのお玉で特製スープを作って、ささやかなパーティーをする予定なのだ。
左手にはピカピカのお玉、右手には焼き立てパンと真っ赤なジャム。
両手いっぱいの荷物を抱え、ボクは教会への道を急いだ。
村全体が、優しい茜色に包まれていく。
ボロボロの家も、継ぎ接ぎだらけの服も、夕焼けの中では等しく黄金色に輝いて見えた。
どこかの家から、夕食の支度をする煙が上がっている。笑い声が聞こえる。誰かが誰かを呼ぶ声がする。
……平和だなぁ。
ボクはこの村が大好きだ。みんな優しくて、温かくて。
神父様もキャストル兄さんも、いじわるなギャレックだって。村の皆が大好きだ。
ずっとこのまま、みんなで笑っていられたらいいのに。
――そう、思った時だった。
「……ん?」
不意に、風が変わった。 鼻の奥がつん、と痛む。
パンの香ばしい匂いでも、夕飯の煙の匂いでもない。
もっと生々しくて、鉄臭くて……吐き気を催すような、腐った油と獣の匂い。
ぞわり。背中の毛が、一斉に逆立つのが分かった。
これは、狩りの匂いだ。それも……森の動物なんかじゃない。
とてつもなく大きな群れの匂いだ。
ボクの足が止まる。
ドクン、と心臓が早鐘を打ち始めた。
2
「は、はぁ……ッ! ギャレック……ッ!!」
ボクは教会へ向かう足を止め、来た道を全速力で駆け戻る。
走る振動で、腕の中からカラン、と乾いた音がした。
ハンクスおじさんが作ってくれたお玉が、地面に落ちて転がった。
アンナおばさまがくれたジャムの瓶が石畳にぶつかり、砕け散った。
ビチャリ、と。甘い香りのする、ドロリとした赤い液体が地面に広がる。
「あ……」
一瞬、それが誰かの血のように見えた。思わず足を止める。
せっかく貰ったのに。みんなには内緒の、大事なジャムだったのに。
……でも、拾っている時間なんてない。そんなことしている場合じゃない。
今すぐに知らせなきゃ。みんな、みんな死んじゃう……!
「……っ!」
走り出すと、風に乗ってくる匂いがさっきよりも濃くなっていた。
鼻の奥にこびりつく、鉄錆と腐敗の臭気。
その匂いが鼻腔を満たした瞬間、脳裏に微かな記憶が浮かんだ。
『――逃げろ』
ボクの知らない記憶。けれど、ボクの細胞が覚えている記憶。
燃え盛る炎。焼け落ちる家。そして、ボクを突き飛ばして遠ざかっていく、誰かの背中。
『逃げなさい!!』
耳元で、女の人の悲鳴が聞こえた気がした。ああ、知っている。ボクはこの匂いを知っている。
これは「死」だ。すべてを奪い尽くす、暴力の匂いだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!」
恐怖で足がすくみそうになるのを、無理やりねじ伏せる。 逃げちゃダメだ。今度は、逃げちゃダメなんだ。この先には兄さんがいる。神父様がいる。みんながいるんだ!
ボクは広場の端にある、一際おんぼろな小屋――自警団の詰所へと滑り込んだ。
バンッ!!
ドアが外れそうな勢いで、叩き開ける。
「ギャレック!!!」
狭い部屋の中。そこに、彼は居た。いつもの椅子に深く座り込み、不機嫌そうに酒瓶を傾けていたギャレックが、飛び込んできたボクを見てげんなりとした顔をする。
「……あぁ? なんだ、また戻ってきたのか」
彼は酔いの回った赤ら顔で、シッシッと鬱陶しそうに手を振った。
「もう騙されねぇぞ、クソガキ。お前もしつこいな」
「ちがう!! ギャレック! 聞いて!!」
ボクは彼の腕に必死にしがみついた。 震えが止まらない。歯の根が合わない。
子供の力とは思えない強さで掴みかかるボクに、ギャレックが怪訝な顔をする。
「来るんだ! 蛮族が! すっごい数が、こっちに向かってる!」
「あぁ? ……おいおい、いつもより雑な話だな」
ギャレックは呆れたように肩をすくめた。
ボクの必死な形相も、彼には新しいイタズラの演技にしか見えていないんだ。
「嘘じゃない! 匂いがするんだよ! 鉄と、血と、腐った肉の匂いが!!」
ボクの叫びに、ギャレックの目がわずかに細められた。
彼は鼻を鳴らし、周囲の空気をスンスンと嗅ぐ。……そして、興味なさげに吐き捨てた。
「何も匂わねぇよ。夕飯のいい匂いしかしないな」
「嘘だ! わかるでしょ!? こんなに臭いのに!!」
「いいや、わからねぇよ。……いい加減にしろ、アスター」
ギャレックの声から、温度が消えた。
彼は腕にしがみつくボクを乱暴に振り払うと、冷ややかな目で見下ろした。
さっきまで遊んでくれていた友人の目じゃない。それは、明確な敵意だった。
「……ハッ。仮にそれが本当だとして、俺たちにどうしろってんだ?」
「逃げるんだよ! 裏の森へ走れば、まだ間に合うかもしれない!」
「森……だと?」
ギャレックの顔色が、怒りから恐怖へと一変した。
彼はボクの胸ぐらを掴み上げ、酒臭い息と共に怒鳴りつける。
「正気か、アスター! あそこは『魔の森』だぞ! 蛮族よりも恐ろしい化け物が巣食う場所だ!」
「でも、ここにいたらみんな殺されちゃう!」
「だから森へ誘うのか? ああ、そういえばお前はそっち側だったな……」
ギャレックの瞳が、濁った光を帯びる。
焦点が合っていない。彼はボクを見ているようで、ボクを見ていなかった。
「そうやって俺たちを騙し、森へ引きずり込み……あの時みたいに、俺の仲間を……ッ!」
ぎり、ぎり、と。腕に力が込められる。
憎悪に顔が歪んでいく。こんなギャレック、見たことがなかった。
「痛い、痛いよギャレック!」
「……ッ、は!?」
ボクの悲鳴で、ギャレックが弾かれたように手を離した。
我に返った彼は、自分の手が震えているのを見て、激しく狼狽する。
「……酒が回りすぎたようだ。クソッ」
彼はバツが悪そうに視線を逸らし、乱暴に頭をかいた。
「タチが悪いぞ、今回のは。……くだらん嘘ばっかりつきやがって」
ガシッ、と首根っこを掴まれる。
抵抗する間もなく、体が宙に浮いた。
「今日という日は、たっぷり頭を冷やしてもらうからな。……ヨアヒムを呼んでくる。それまで、ここで大人しくしてろ」
「ギャレック離して! 本当に来るんだよ! 信じてよぉ!!」
ギャレックは詰所の奥にある、重い扉を開け放った。
地下倉庫への入り口だ。
「やだ! やだぁ!!」
ドサッ。 硬い床に叩きつけられる。カビ臭い空気が舞い上がった。
すぐに立ち上がろうとしたけれど、それより早く、頭上で重い扉が閉ざされる。
視界が、闇に塗りつぶされた。
ガチャリ。
鍵のかかる無機質な音が、暗い部屋に残酷に響く。
「ギャレック! 開けて! お願いだよぉ!!」
扉を叩く。何度も、何度も。
拳が擦りむけて痛いけれど、そんなことどうでもいい。
「嘘じゃないんだ……本当なんだよ……」
扉の向こうで、足音が遠ざかっていく。
ボクの悲鳴は、分厚い木の扉に吸い込まれて消えた。
後に残ったのは、鼻を刺す獣の悪臭と、絶望だけだった。
3
どれくらい時間が経っただろう。 ボクは膝を抱えて、暗闇の中で震えていた。
鼻を突く群れの悪臭は、壁を隔てていても濃くなっていく。怖い。殺される。
でも、それ以上に悔しかった。友達だと思っていたのに、家族だと思っていたのに。
信じてもらえなかったことが、なによりも悔しくて、悲しかった。
カチャリ。
不意に、背後で鍵が開く音がした。重い扉がゆっくりと開き、夕暮れの赤い光が差し込んでくる。
逆光の中、誰かのシルエットが浮かび上がった。
「……ギャレック?」
ボクは期待を込めて顔を上げた。
けれど、そこに立っていたのは、いつもの不機嫌な用心棒ではなかった。
夕日を背負って浮かび上がる、緩やかにカーブした二本の角が見えて──。
「──遅くなってごめんね、アスター」
「兄さん……!」
そこに居たのはキャストル兄さんだった。
ボクは弾かれたように飛びつき、その胸に顔を埋めた。
鼻いっぱいに吸い込む、兄さんの匂い。古い紙とインク、そして微かなミルクの香り。
温かい。優しい匂いがする。ボクの、大好きな兄さんだ。
「兄さん! 逃げて! 逃げなきゃ!」
「落ち着いて、アスター。どうしたの? ギャレックさんがカンカンだったよ。『あいつは反省室だ』って」
兄さんは優しくボクの背中を撫でてくれた。
その手のひらの温かさに、張り詰めていた心が決壊して、涙が溢れ出した。
「うっ、ぐすっ……! 本当なんだよ、来るんだよ……!」
「うん」
「蛮族がいっぱい……すごい臭いがするのに……信じてくれなくて……!」
「うん、うん……」
「ボク、嘘なんてついてないのに……!」
兄さんは何も否定しなかった。
しゃがみこんで、ボクの目線に合わせて、涙を指で拭ってくれた。
その瞳は、鏡のように澄んでいて、まっすぐにボクを見ていた。
「信じるよ、アスター」
「……え?」
「君が嘘をついていないことくらい、僕にはわかる。……君は昔から、嘘をつくのが下手だからね」
なんて、へらりと笑う。
見破られたことなんて、ないと思ってたのに。
やっぱり、兄さんには敵わないや。場違いにも、そう思った。
「……それに、微かだけど僕にも感じるよ。嫌な予感がね」
兄さんの言葉に、ボクは救われた気がした。
そうだ、兄さんはボクを信じてくれる。誰が疑っても、この人だけはボクの味方でいてくれる。
「なら、逃げよう兄さん! 今から裏の森へ走れば、ボクたちだけでも助かるかも……」
ボクは兄さんの手を引こうとした。
けれど、兄さんは動かなかった。
彼はじっと、少し開いた扉の隙間から、赤く染まる村の方を見ていた。
「……兄さん?」
夕暮れに染まる村。
どこかの家から聞こえる笑い声。教会の鐘の音。
何も知らない人々の、穏やかな日常。
「逃げたら、みんな死んじゃうね」
静かな、声だった。ボクの手を握り返す兄さんの手は、小刻みに震えている。
怖くないわけじゃない。逃げたくないわけじゃない。
それでも、彼は逃げようとはしなかった。
「でも⋯⋯、でも! 逃げなくてどうするのさ!」
「アスター。僕らは普通の人間じゃない。リカントだ。」
「だ、だから何だよ! 兄さん身体弱いじゃないか!」
「腕力はないけど……僕らには、夜を見通す目がある。風の音を聞く耳がある。」
兄さんは静かに、けれど力強く告げた。
「それに……今、敵が来ていると知っているのは僕らだけだ。不意打ちを受ける彼らを守れるのは、僕らしかいないんだよ」
「戦うのはギャレックに任せたら良いじゃないか! 用心棒なんだから!」
「でも、彼は蛮族が来るなんて思ってないんだろう?」
兄さんの静かな指摘に、ボクは唇を噛んだ。
「そ、そうだよ⋯⋯。ギャレックはボクを信じてくれなかったんだ。それに、ここに閉じ込めて⋯⋯。」
「そうだね。彼は頑固だから」
あんなに必死に訴えたのに。 それなのに、なんでボクたちが。
「あの人達なんか放っておこうよ! 兄さんまで死んじゃったら、ボク⋯⋯!」
ボクは叫んだ。理不尽だと思った。
どうして信じてくれない人たちのために、兄さんが危険な目に遭わなきゃいけないんだ。
「それでも……」
兄さんは、ボクの方を向き直った。
その顔には、今まで見たこともないような、力強い微笑みが浮かんでいた。
「やっぱり、僕はこの村が大好きだ」
「……」
「鍛冶屋のハンクスさんも、パン屋のアンナさんも、不器用なギャレックさんも。……みんな、僕たちの大切な家族だ」
兄さんは、腰に下げていた何かを取り出し、ボクに差し出した。
それは、一部がひしゃげて泥のついた、ハンクスおじさんのお玉だった。
「あ……」
「来る途中で落ちていたよ。その横には、割れたジャムの瓶もあった」
兄さんの目が、悲しげに細められる。
「ジャムなんて貴重なもの、君が放り出すなんて考えられないし……。それに、ただ転んで落としたようには見えなかったから。それを見たら、分かったよ。君がどれだけ必死だったか」
「兄さん……」
「だから……ごめんね、アスター。僕は逃げないよ」
その言葉が、ボクの腹の底に火をつけた。
兄さんは、ボクが投げ出したものを拾ってくれていた。
ボクの必死な想いを、ちゃんと拾い上げてくれていた。
……ボクだって大好きなんだ。酷いことを言われても、信じてもらえなくても。
神父様のことも、ハンクスさんのことも、アンナさんのことも。いじわるなギャレックだって。
やっぱり、嫌いになれないんだ。
あいつらに、指一本触れさせるもんか。
「……ボクも、この村が大好きだよ。みんな、死んでほしくないよ」
ボクは涙を袖で拭う。
兄さんからお玉を受け取る。少し歪んでしまったけれど、その軽さは、ボクの手にしっくりと馴染んだ。
もう泣かない。兄さんが信じてくれて、この村が大好きで。
だったら、やることは一つだった。
「だから⋯⋯ボクも。ボクだって、一緒に戦う!」
「なら⋯⋯行こう、アスター。……神父様には、後で謝ろうね」
兄さんの言葉に、ボクは大きく頷いた。
この戦いが終わったら、神父様に怒られて、ギャレックに「ほら見たことか」って言ってやるんだ。
ボクたちは駆け出した。手には歪んだお玉と、木の棒を握りしめて。大切な場所を守るために。
目指すは村の入り口。色とりどりの花が咲き乱れる、あの美しい広場へ。
4
村の入り口にある広場は、一面の花畑になっている。
春には色とりどりの花が咲き、風が吹くと甘い香りが村へと運ばれる。
ボクと兄さんが大好きな場所。
けれど今、そこにあるのは花の香りじゃなかった。
鼻が曲がりそうなほどの腐臭。そして、地平線を埋め尽くすほどの黒い影。
「う、そ……こんなに……」
ボクは息を呑んだ。
ゴブリン、ボルグ、さらには見たこともない大きな魔物たち。
群れなんてものじゃない。これは──「軍隊」だ。
「……ハルーラ様。どうか我らに導きを。」
隣で、兄さんが静かに祈りを捧げた。その手が、ボクの肩に触れる。
「アスター。僕が君を守る。だから君は、前だけを見て」
「う、うん……!」
ボクはハンクスおじさんがくれたお玉と木の棒を構えた。
相手は鉄の武器を持った軍隊。相対するにはあまりに貧弱だ。
⋯⋯でも、これしかない。
震える足を必死に踏ん張る。
「グルゥゥゥ……ッ!!」
喉の奥から、低い唸り声が出た。
怖い。逃げたい。でも、後ろには兄さんがいる。村のみんながいる。
先頭のゴブリンが、下卑た笑い声を上げて飛びかかってきた。
錆びたナイフがボクの喉元に迫る。――その、瞬間。
(……あれ?)
世界がゆっくりに見えた。
ボクの体は、恐怖で固まるどころか、思考よりも速く動いた。
半歩、右へ。ナイフが鼻先を掠める。
そのまま回転し、遠心力を乗せたお玉を、がら空きになったゴブリンの側頭部に叩き込む。
ガインッ!!
硬い音が響き、ゴブリンが白目を剥いて吹き飛んだ。
「……え?」
自分の手を見る。どうやって動いたのか、分からなかった。
まるで身体が勝手に最適解を選んだような、不思議な感覚。
「アスター、次が来るよ!」
「ッ、ガァァッ!!」
兄さんの声に弾かれるように、ボクは再び跳んだ。
一匹、二匹、三匹。
襲いかかってくる魔物たちの動きが、なぜか手にとるように分かる。
あそこを叩けばいい。ここで避ければいい。ここで足を払えばいい。
教わったこともない殺し方が、次々と頭に浮かんでくる。
「すごい……アスター、君は……」
兄さんが驚きの声を上げながら、神聖魔法でボクの傷を癒やしてくれる。
ボクたちは戦っていた。
たった二人で。お玉と木の棒だけで。
奇跡的に、前線を維持していた。
――もしかしたら、守れるかもしれない。
そう、希望を抱いた時だった。
パチ、パチ、パチ。
戦場には似つかわしくない、乾いた音が響いた。
拍手?誰が?
「ギ、ギギッ……!?」
蛮族たちが、怯えたように道を開ける。
海が割れるように開いた道の向こうから、一人の女性が歩いてきた。
血と泥にまみれたこの場所で、そこだけが異様に美しく、そして恐ろしかった。
「素晴らしいわ。なんて健気で、なんて愚かなの」
女はうっとりとした瞳で、ボクたちを見下ろした。
⋯⋯まるで、素晴らしい美術品か、あるいは最高級の食材を見るような目で。
「だ、誰だ!」
「無謀で、哀れで、献身的だわ。なんて⋯⋯なんて、素晴らしいのかしら」
女が笑う。
その笑顔を見た瞬間、ボクの本能が警鐘を鳴らした。
蛮族なんかより、ずっと、ずっと恐ろしい捕食者だと。
「兄さん、逃げ……!」
「合格よ。あなたたち」
女の言葉が、ボクの声を遮る。
「なんて健気なのかしら。 震える足で英雄を気取る羊さんも。 首輪に繋がれることを自ら選んだ狼さんも。ああ、愛おしい……。その愚かさを、骨の髄までしゃぶり尽くしてあげたい」
女がスッと手を掲げる。
それだけで、体が金縛りにあったように動かなくなった。
「ここで死なせるには惜しいわね。……もっとじっくり、味付けしてあげなくちゃ」
「や、やめ……!」
女がパチンと指を鳴らす。
その乾いた音が、ボクの意識を刈り取る合図だった。
⋯⋯視界が、暗転する。
最後に見たのは、ボクを庇おうとして前に出た、兄さんの背中だった。
「――兄さ、ん……」
世界が、闇に落ちた。
5
「……ッ!」
ガバッと体を起こす。 激しいめまいと、頭が割れるような痛み。
ボクは地面に手をついて、激しく咳き込んだ。
「げほっ、ごほっ……!」
……なんだろう。 口の中が、ひどく気持ち悪い。錆びた鉄を舐め続けたような、生臭い味。
それに、胃袋が鉛を詰め込んだように重い。さっきまで、あんなに必死に動いていたのに。
どうしてこんなに、満腹なんだろう?
「……あれ? 兄さん……?」
視界のピントが合うにつれて、違和感が押し寄せてくる。
蛮族の軍隊がいない。あの轟音も、怒号も、地響きも。嘘のように静まり返っている。
あるのは、風の音だけ。そして――。
兄さんの服の切れ端と、無残に引き裂かれた何かが転がっていた。
「……あ、あ……?」
ボクの足元には、見覚えのある白い布が落ちていた。
兄さんが着ていた服の切れ端。それが、赤黒い肉塊と混ざり合って、散らばっていた。
「ひッ……!?」
悲鳴を上げようとして、喉がひきつった。違う。そんなはずがない。
蛮族は、魔物たちは、全部倒せたはず⋯⋯。⋯⋯あれ、でも、最後は、兄さんが庇って、あれ?
「……ア、スター……?」
震える声が聞こえた。 振り返ると、村の方から人々が集まってきていた。
ハンクスおじさん、アンナおばさん……そして、先頭には剣を抜いたギャレック。
助かった。みんな無事だったんだ。
「ギャレック!みんな!大変なんだ!兄さんが……兄さんが!!」
手を伸ばして、彼らに駆け寄ろうとした。けれど。
「テメェ!それ以上近寄るなッ!!」
「⋯⋯へ?」
彼らの反応は、異常だった。
あの優しかったアンナおばさんが、ハンクスおじさんが、青ざめたような、怯えたような。
おぞましいものを見る目をボクに向けていた。
「な、なん⋯⋯え?」
「近寄るなって言ってんだよ……!この、人食い狼が!!」
ギャレックが剣を突きつけて叫ぶ。
その剣先は震えていた。怒りだけじゃない。心の底からの恐怖だった。
「ギャレック……?何を言ってるの?兄さんが、蛮族に……」
「蛮族だァ!? まだ嘘をつくのか!!」
ギャレックは鬼気迫る顔で怒鳴り散らした。
「何もいねぇじゃねぇか! 最初からいなかったんだ!」
「お前が……腹を空かせたお前が、俺たちを食うために嘘をついて……!」
「騙されなかった俺たちの代わりに、キャストルを食ったんだろ!?」
──────。
────。
──。
「──は?」
思考が停止する。何を、言っているんだ。
いなかった? 蛮族が? ボクが、お腹が空いて……兄さんを?
「ち、違う……! 違うよ!!」
ボクは首を横に振り、否定する。
「ボク、頑張って蛮族と戦ったんだ。ほら、見て⋯⋯この、お玉でさ⋯⋯」
ボクは証拠を見せようと、右手を掲げた。
ハンクスおじさんが作ってくれた、あのお玉を。
けれど、その手には何も握られていなかった。
代わりに目に映ったのは、べっとりと赤く染まった、鋭い爪だった。
指の隙間に、白い糸くずが絡まっていた。……兄さんの服だ。
「⋯⋯違うよ」
口を開くたびに、ポタ、ポタと。口元から、ぬるりとした雫が垂れる。
鉄の味と、濃厚な脂の味がする、赤い液体。
手の甲でぬぐう。けれど、拭った手も血塗れで。
余計に顔中が赤く汚れていく。
⋯⋯お腹が、嫌なほど膨れていた。
「⋯⋯違う。違うよ」
視線を落とせば、兄さんの服の切れ端と、無残に引き裂かれた"何か"。
鋭い爪で切り裂かれたような、牙で噛みつかれたような痕。
ボクの、爪と、牙と、同じ。
──ぐるる、とお腹が鳴った。
「ちがう……ちがう、ちがう……!」
自分の口に手を突っ込む。喉の奥を爪でかきむしる。出さなきゃ。吐き出さなきゃ。
早く出さなきゃ、溶けてしまう……!
「オェッ、ガハッ……! あ、が……ッ!」
胃液すら出ない。何も出ない。出そうとしているのに、なんで。
「ちがうちがうちがうちがうううぅぅぅ⋯⋯っ」
喉が裂けた。言葉はもう、形を成さない。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ……!!!!」
嘔吐の痙攣と、絶叫が混ざり合う。
けれど、何も出ない。兄さんは溶けて、ボクの肉になって、離れてくれない。
「ア゛……ッ、あ゛、ぁ……」
酸素が尽きる。 視界が白く明滅する。
それでも、吐き出そうと腹筋を痙攣させるたびに、口から漏れるのは情けない空気の音だけ。
苦しい。息ができない。いや、違う。息なんてどうでもいい。
お腹が。お腹が熱い。動いてる。溶かしてる。やめろ。消化するな。兄さんだぞ。兄さんなんだぞ。
「──殺せ! 化け物を殺せぇぇッ!!」
歪んだ視界の隅。ギャレックが、見たこともない顔で吠えているのが見えた。
振り上げられた剣。ギラリと光る、鋭い鉄。
ああ。 ああ、あぁ、あ。
いいな。あれは、いい。あれなら切れる。ボクの爪じゃ届かない、このお腹を切り裂ける。
「あ、 が……」
切ってくれ。 早く、このお腹を切り裂いて、中身を全部ひっぱり出してくれ。
まだ間に合うかもしれない。まだ溶けきってないかもしれない。
お願いだ、ギャレック。兄さんを助けて……!
ボクは救いを求めるように、その刃を見つめ――
「――やめなさい!!」
雷のような怒号が、鼓膜を叩いた。
剣の軌道が、ボクの鼻先数センチで凍りつく。風圧で前髪が揺れる。
……刃は、届かなかった。
「あ……」
なんで。 あと少しだったのに。あと少しで、兄さんを出してあげられたのに。
「……う、あ……」
ボクは手を伸ばした。その刃に縋り付こうとした。
けれど、視界を塞ぐように、黒い壁が立ちはだかった。ヨアヒム神父様だ。
大きく、広い背中。その背中が、陽炎のように揺らぐ。
『生きて、アスター!』
――重なった。兄さんの背中と。
ボクを生かすために、ボクの盾になった、あの背中と。
「あ、ぁ……」
ボクは生かされたのか。兄さんを食べたこの体で。兄さんを犠牲にして。
まだ、生きろと言うのか。
「ごめん……なさ、い……」
誰に謝ったのか、自分でも分からなかった。
断ち切られた糸のように、意識がプツリと途切れる。
ボクの意識は、また、深い闇へと落ちていった。
6
「……きなさい。……起きなさい、アスター」
揺さぶられる感覚で、ボクは目を開けた。
鼻につくのは血の匂いじゃなく、古い紙とインク、そして蝋燭の匂い。
ここは……教会の隠し部屋だ。
「神父、さま……」
目の前には、どこかやつれたヨアヒム神父様がいた。
その目は真っ赤に充血していて、まるで何年も歳をとったように老け込んで見えた。
「よかった、気が付きましたか」
その安堵の声で、記憶が濁流となって蘇る。兄。お腹。止められた刃。
「なんで……ッ!」
ボクは寝台から転げ落ちるようにして、神父様の足元に縋り付いた。
その黒い法衣を、力任せに握りしめる。
「なんで止めたの!? あと少しだったのに! 切ってよ! 早くお腹を切ってよ!!」
「アスター、落ち着きなさい!」
「まだ間に合うかもしれないんだ! 兄さんが、ボクの中で……まだ……ッ!!」
「キャストルは死にました!!」
悲痛な一喝が、狭い部屋に響いた。
鋭利な杭で脳髄を貫かれたように、ボクの喉が凍りつく。
「……ぁ」
死んだ? 兄さんが? 嘘だ。だって、お腹はこんなに熱いのに。
「……う、そ……」
思考が白く明滅する。ボクの心は砕け散る寸前だった。
「嘘だよ……嘘って言ってよ……」
ボクは救いを求めるように、濡れた瞳で彼を見上げた。
神父様は苦しげに顔を歪め、法衣を掴むボクから視線を逸らす。
「……アスター」
床を見つめたまま、絞り出すように告げる。
「……村の外には、軍勢の痕跡など一つもなかった。皆……君がやったのだと、思いこんでいる」
神父様の言葉は、冷徹だった。
けれど、その声は震えていた。
「あの場所にあったのは……無残に捕食されたキャストルの遺体と、鮮血の海で微睡む、君だけだ」
「ち、違うよ……!」
ボクは首を振った。
違う。そんなはずはない。だって、ボクは戦った。兄さんと一緒に。
「蛮族がいたんだ! 凄い数だったんだ! 嘘じゃない、ボクは……!」
「村の人々は激昂しています。ギャレックも、アンナも……君を殺せと叫んでいる」
「そん、な……」
「私は彼らを説得できませんでした。……いや」
神父様は言葉を詰まらせ、苦悶の表情で胸元を握りしめた。
「私自身、まだ……受け止めきれていないのです」
「え……?」
神父様は、まっすぐにボクを見つめる。
そこには、慈愛と、それと同じだけの恐怖が混ざり合っていた。
「信じたいのです、アスター。……私の愛する息子よ」
「君が嘘をつくような子ではないと、私は知っている。あの惨劇は、何かの間違いだったのだと……心から、そう信じたい」
その言葉は、暗闇に射し込む一筋の光明のようで。
地下牢で、兄さんがボクを信じてくれた時のように、この父だけは、ボクを見捨てたりはしないんだ。
「おとう、さん……」
ボクの手には、まだ法衣を握りしめた感触がある。
神父様は、その震えるボクの手の上に、そっと自分の手を重ねた。
温かい。 大きくて、無骨で、優しい手。
「……っ」
ボクが安堵に涙をこぼしかける。
神父様は、ボクの手を優しく、けれど抗えない力で――法衣から引き剥がした。
「あ……」
指先から、父の体温が逃げていく。温もりが消えた、空っぽの両手。
行き場を失った指先が、虚しく空を切った。
「行きなさい、アスター。二度と戻ってきてはいけません」
「……」
「『アスター・クライア』は死にました」
その言葉は、冷徹な杭のようにボクの胸を貫いた。
「人食い狼は、私が滅ぼした。……アスターという少年は、今夜ここで死んだのです」
震えた声で紡がれる、絶縁の言葉。ここにはもう、ボクの居場所はない。
涙は出なかった。 心の中が空っぽになって、ただ冷たい風が吹き抜けているようだった。
「……はい」
神父様が、ボクの前に何かを差し出した。それは、一冊の日記帳と、僅かなお金と、保存食の包み。
兄さんが、いつか旅に出るためにと準備していたものだ。
「持っていきなさい。……あの子の分まで、君が生きていくために」
差し出された神父様の手は、静かだった。表情は厳格で、その瞳は真っ直ぐにボクを見ていた。
そこに恐怖の色はなく、ただ息子の旅立ちを案じる、いつもの優しい父の顔があった。
ボクは日記を受け取ろうと手を伸ばした。
せめて、最後に。この手に触れて、さよならを言いたかった。
⋯⋯神父様の指先にふれる寸前。差し出された手が、弾かれたようにビクリと跳ねた。
反射的に、逃げるように。
「え……」
「あ……」
神父様自身も、自分の手が何をしたのか理解できていないようだった。
宙に残されたボクの手と、胸元に引き寄せられた自分の手を見比べ――やがて、その顔が青くなる。
「っ、す、すまない……」
彼は罪悪感に顔を歪め、バツが悪そうに視線を逸らした。
ああ。
ボクの中で、何かが冷えていく音がした。
ああ、そうか。神父様でも、ダメなんだ。
ここに、ボクの居場所はない。
それが、分かった。
ボクはふらつく足で立ち上がり、日記を荷物に詰めた。
これが、ボクに残された全ての財産。兄さんの命と引き換えに残った、紙切れ。
裏口の扉を開ける。
外はもう夜だった。冷たい夜気が肌を刺す。
「……最後に、一つだけ」
神父様が、背中に声をかけてきた。
「君は……本当に、やっていないのですね?」
その問いかけに、ボクは足を止めて、振り返る。
神父様の目は、僅かな希望に縋るようだった。信じたいと願う目だった。
ボクは口を開きかけて――閉ざした。
ボクが「やってない」と言えば、信じてもらえるだろうか?
⋯⋯いいや。ギャレックも、村のみんなも、神父様だって、きっと誰も信じてくれやしない。
ボクの言葉に、説得力は欠片もない。それに……お腹が、まだ重かった。
「……さあ」
ボクは力なく笑った。 それはきっと、酷く歪んだ笑みだっただろう。
「ボクは『嘘つき』だから。……ボクの言うことなんて、信じないほうがいいですよ」
神父様が息を呑む気配がした。
ボクはもう、振り返らなかった。
闇夜の中へ、一歩を踏み出す。
「さようなら、神父様」
背後で扉が閉まる音。
それが、ボクの少年時代の終わりを告げる音だった。
夜道を歩きながら、ボクは空を見上げた。
星が綺麗だった。兄さんと一緒に見上げたかった星空。
でも、隣にはもう誰もいない。
嘆くことも、もう出来ない。
ボクは、どうしようもなく孤独だった。
【前日譚②】蜘蛛の糸
1
村を追い出されてから、何日が経っただろう。 昼も夜も分からない。
分厚い雨雲に閉ざされた森は、ずっと薄暗いままだ。
ボクは深い森の中を、亡霊のように彷徨っていた。
雨が降っていた。冷たい雨粒が、容赦なく体温を奪っていく。
「はぁ……、はぁ……」
着ている服は泥と水を吸って、鉛のように重く肌に張り付いている。
靴底はとっくに擦り切れ、踏みしめる木の根や尖った石が、足の裏を容赦なく切り刻む。
歩くたびに、泥水と滲んだ血が混ざり合う、グジュ、グジュという音がした。
「……うッ、ぷ……っ、ぉぇ……ッ!!」
木の根元にうずくまり、ボクは地面に手をついた。胃袋が裏返るような痙攣。
けれど、口からこぼれ落ちたのは、黄色い胃液だけだった。
何も食べていない。水さえ、まともに飲んでいない。
喉は干からびた古井戸のように渇き、お腹は背中に張り付くほど空いているはずなのに。
木の実を見ても、川の魚を見ても、それを「食べ物」だと認識した瞬間――
あの時の記憶が、錆びた鉄の味と共に蘇るのだ。
――『キャストルを食ったんだろ!?』――
ギャレックの怒号が、頭の中で反響する。
違う。ボクは食べてない。食べたくない。
……グルゥゥゥ。
低い音が鳴った。ボクの意思とは関係なく、ボクの胃袋がエサを求めて鳴いたのだ。
まるで、自分の中に飼っている獣が唸り声をあげたみたいだ。
兄さんを喰らった、あの怪物が、ここにいるのだ。
「……うる、さい」
ボクは拳を握りしめ、自分のお腹を殴りつけた。
ドスッ。
「うっ……! うるさい、うるさい!!」
ドスッ、ドスッ。
何度も、何度も殴る。痛い。でも、この空腹の音の方がもっと痛い。
黙れ。欲しがるな。生きようとするな。お前が欲しがったら、また誰かを食べてしまうじゃないか。
ボクは自分の手が怖かった。自分の口が、牙が、消化器官が怖かった。
生きようとする本能そのものが、汚らわしくてたまらなかった。
「……もう、いいや」
ふっと、体の芯を繋ぎ止めていた糸が切れた。
殴り続けていた拳から力が抜け、だらりと泥水の中に垂れ下がる。
背中を預けていた木の幹から、ずるりと体が滑り落ちる。
膝が泥を打ち、支えきれなくなった上半身が、バシャリと泥濘へ沈み込む。
冷たい泥水が頬を濡らす。ああ、冷たくて気持ちいいな。このまま冷え切ってしまえばいい。
残った僅かな力を振り絞り、胸に抱いた鞄の中から、一冊の本を取り出す。
兄さんの日記帳。ボクに残された、唯一の温もり。
「ごめんね、兄さん……」
このまま死のう。誰にも見つからない森の奥で、泥にまみれて土に還ろう。
そうすれば、もう誰も傷つけなくて済む。
もう二度と、食事をしなくて済む。
意識が遠のいていく。激しく打ち付ける雨の音が、遠い世界の出来事のように聞こえる。
寒さも、痛みも消え、心地よい闇が迎えに来た。
――その時だった。
2
意識が途切れる寸前。激しく体を叩いていた雨の音が、ふつり、と止んだ。
「あらあら。こんなところに、可哀想な仔犬ちゃん」
鈴を転がすような、甘い声が聞こえた。
雨音が消える。誰かが傘を差しかけてくれたのだと、ぼんやり理解する。
重いまぶたを、無理やり持ち上げる。薄く開いた視界に、一人の女性が立っていた。
「……ぅ、あ……?」
それは、この泥臭い森にはあまりにも不釣り合いな姿だった。
豪奢なドレスではないけれど、仕立ての良い旅装束。
雨の中を歩いてきたはずなのに、その服には泥の跳ね返り一つなく、濡れてさえいなかった。
フードの奥から覗く瞳が、慈愛に満ちた光で、泥まみれのボクを見下ろしている。
まるで、傷ついた野良犬を憐れむような、優しい目。
「……だ、れ……?」
「通りすがりの旅人よ。……酷い顔ね。何日食べていないの?」
女性が屈み込み、ボクの泥だらけの頬に白い指先で触れる。
その手は驚くほど温かくて、柔らかかった。
けれど。ボクの体は、反射的にビクリと跳ねた。
「っ、さわ……らないで……!」
ボクは最後の力を振り絞って、彼女の手を乱暴に振り払った。いや、振り払おうとした。
けれど、やせ細った腕は空を切って、ぱしん、と弱々しく彼女の手に当たっただけだった。
「あら?」
「ボクは……人食い、狼だ……。近づくと……食べちゃうぞ……!」
精一杯の脅し文句だった。
信じてもらえないのも、怯えられるのも、もうたくさんだ。だから、近寄らないでくれ。
けれど、その声は掠れていて。
威嚇どころか、捨てられた仔犬の鳴き声のように弱々しかった。
女性は驚くどころか、くすりと笑う。
「まぁ。こんなに痩せっぽちなのに?」
「……ッ、うるさ……」
彼女は冗談めかしてそう言うと、ボクの身体をひょいと抱き上げた。
まるで、軽い荷物でも持つかのように簡単に。
「な……っ、あ、はなして……っ!」
ボクは身をよじった。 こんな汚れた体で触れられたくない。近寄られたくない。
どうせ最後は、ボクを化け物扱いして逃げ出すのに。
「下ろして……! ボクに関わらないで……っ!」
「はいはい、いい子ね。暴れると落ちるわよ」
抵抗する力なんて、残っていなかった。
彼女の腕の中は、悔しいくらい温かくて、甘い香りがした。
花の香りじゃない。もっと甘美で、脳がとろけるような……お菓子の匂い。
「あら⋯⋯いい子ね。そのまま寝ていなさい」
彼女はボクを抱えたまま、軽やかな足取りで歩き出した。
……雨音が遠ざかる。
3
パチパチ、と爆ぜる音。コトコト、と何かが煮込まれる音。
意識が浮上すると同時に、甘く優しい香りが鼻腔をくすぐった。
泥と血の匂いじゃない。野菜と、香草と、ミルクの混ざった……幸せな匂い。
「……ぅ、あ……」
目を開けると、そこは岩肌が剥き出しの小さな洞窟だった。
目の前には焚き火があり、その上で小さな鍋が湯気を立てている。
「お目覚めかしら?」
焚き火の向こうで、あの女性が微笑んでいた。
彼女は木の器にスープをよそい、ふうふうと息を吹きかけてから、ボクに差し出した。
「さあ、召し上がれ。特製の野菜スープよ」
乳白色に輝くスープ。
とろりと煮込まれた野菜が、宝石のように見えた。
――グルゥゥゥ……。
条件反射で、お腹が小さく鳴いた。胃袋が、歓喜の悲鳴を上げている。
けれど、ボクは小さく震えながら首を横に振った。
「いら、ない……食べたく、ない……」
「どうして? 食べなきゃ死んじゃうわよ?」
「……それで、いいんだ」
ボクは膝に顔をうずめたまま、掠れた声で言った。
親切ごかしに近づいてくるなんて、お人好しな旅人だ。
ボクがどんな奴かも知らないくせに。
「……アンタ、馬鹿なの? さっき言ったこと、忘れたの?」
ボクは顔を上げ、精一杯、睨みつけた。怖がらせてやる。軽蔑させてやる。
そうすれば、この人だって逃げ出すはずだ。
「ボクは……『人食い狼』なんだよ」
一呼吸置いて、続ける。
声が震えていた。
「村の皆を……食べようとしたんだ」
言葉にするたびに、口の中に鉄の味が広がる気がした。喉が焼けつくように痛い。
それでも、止めなかった。
「優しかったアンナおばさまも、ハンクスおじさまも……友達だったギャレックも、神父様も……」
指が震える。名前を呼ぶだけで、彼らの怯えた顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「み、みんなを……ボクが、食べようとしたんだ」
「……。」
「それに……にいさん、だって」
喉が熱い。言葉にするたびに、自分の心が引き裂かれるようだ。
でも、言葉を止めなかった。
「一番大好きだった兄さんを……ボクは……」
「ボクは……化け物、なんだ」
言い切った瞬間、ボクは目をぎゅっと閉じた。
これで、終わりだ。
ボクは壁に手をついて立ち上がろうとした。ふらつく足に力を込める。
ここにいちゃいけない。早く、遠くへ。誰も居ないところへ。
「……助けてくれて、ありがと。でも、これ以上ボクに関わらないで」
ボクはよろめきながら、洞窟の出口へと向かった。冷たい雨が吹き込んでくる。
それでいい。ボクには泥がお似合いだ。
「さようなら、お人好しさん」
そう言って、一歩を踏み出そうとした時だった。
「――あら。どこへ行くつもり?」
細い腕が、ボクの肩を掴んだ。驚くほど強い力だった。
抵抗する間もなく、ボクの体は強引に引き戻され、壁際に押し付けられた。
「はなっ……! 何するんだよ!」
「座りなさい。まだ話は終わっていないわ」
彼女の声から、甘さが消えたわけではない。
けれど、そこには絶対に逆らえない強制力が含まれていた。
ボクは蛇に睨まれた蛙のように、その場に縫い止められた。
「あのね、坊や。生き残ったことには必ず意味があるのよ」
彼女はスプーンでスープをすくい、ボクの口元に突きつけた。湯気が鼻先を掠める。
「あなたが死んだら、お兄さんは……犬死にね。」
「……っ」
「お兄さん、食べてしまったんでしょう?」
彼女は慈しむように目を細めた。まるで、親が子に言い聞かせるように。
「でもね。それはお別れじゃないわ」
「……え?」
「あなたの血肉となって、一緒にそこにいるの」
彼女の細い人差し指が、すぅ、とボクのお腹をなぞった。
まるで、そこに在る罪の輪郭を確かめるように。
「……ほら、ここに」
「うぁ……っ」
否定したかった。けれど、指先が触れた場所は、確かに温かくて、重い。
兄を喰らった実感が、じわりと身体を蝕む。
思わず声が漏れる。
ボクが死ねば、兄さんは……。兄さんが生きた意味はどうなる?
ボクが台無しにしてしまった。その償いは。贖いは、どうなる。
彼女は顔を近づける。
怯えるボクの瞳を、まるで甘い菓子でも味わうようにうっとりと眺めながら、優しく、諭すように囁いた。
「それだけじゃないわ。……村の人たちだって、そうよ」
「あなたがここで餓死してしまったら……お兄さんも、村の人も。みんな、みぃんな無駄になっちゃうもの」
「……え?」
どういう意味だろうか。みんなが、無駄に?
思考が混乱する。頭がうまく働かない。
けれど、彼女は考える隙を与えてくれなかった。
スプーンが、強引に唇を抉じ開ける。
「ほら、食べなさい。生きるのよ」
「んぐっ……!?」
乳白色の液体が、口の中に流し込まれる。
味はしなかった。ただ、暖かかった。
「……ッ、んっ、ぁ……」
吐き出そうとした。けれど、体は正直だった。
乾ききった喉が、空っぽの胃袋が、必死に栄養を吸収しようと蠢いた。
「どう? 美味しいでしょう?」
「う、ぅ……」
「温かいでしょう? ……それが生きるってことよ」
無味の液体が、脳が痺れるほど美味しかった。
兄さんを失ったばかりなのに。自分が化け物だと知ったばかりなのに。
ボクの体は、涙が出るほど、生を貪ってしまった。
助かった。
そう思ってしまった。
「そう、いい子ね……」
彼女は満足そうに目を細めて、次々とスープを流し込んでくる。
ボクは泣きながら、それを飲み下すしかなかった。
温かいスープが胃袋に落ちるたび、冷たい鎖となってこの世にボクを繋ぎ止める。
「いっぱい食べて、生きなさい。……無駄になんて、させないから」
彼女は聖母のように微笑む。
その笑みに、暗い悦びが揺らめいていた。
4
スープをすべて飲み干す頃には、体の震えは止まっていた。
お腹が満たされると、鉛のように重かった瞼が落ちてくる。
抗えない睡魔。
それは、久しぶりに摂取した栄養が、ボクの体を強制的に休ませようとしている証拠だった。
「んぅ……。」
「おやすみなさい。……良い夢を」
薄れゆく意識の中で、彼女が羊皮紙のようなものを広げる音が聞こえた気がした。
翌朝。小鳥のさえずりで目が覚めた。
雨は上がっていた。洞窟の入り口から差し込む朝日は、泣きたくなるほど眩しくて、綺麗だった。
「……あ」
焚き火の跡は、冷たくなっている。あの女性の姿は、どこにもなかった。
まるで、昨夜の出来事が全て夢だったかのように。
けれど、ボクの体には力が戻っていたし、枕元には少しの保存食と、一枚の古びた地図が置かれていた。そして、地図の余白には、流麗な文字でこう書き記されていた。
『生きる意味を探すなら、ここへ行きなさい』
地図には、ある場所が赤いインクで丸く囲まれていた。 それはとある貿易都市だった。
そして、その横に描かれた挿絵――雲海を裂いて進む、巨大な空飛ぶ船の絵。
『飛空挺乗組員・冒険者求む』
「……飛空艇」
ボクは、胸に抱いていた兄さんの日記帳を開いた。
血で少し汚れてしまった、最初のページ。そこに書かれている、幼い兄さんの筆跡。
『いつか、世界の果てを見てみたい』
『広い空を飛んで、誰も知らない景色をアスターに見せてあげたい』
「……う、ぅ……」
ボクの涙が、ページに落ちてシミを作った。
兄さんは、行きたかったんだ。狭い村を飛び出して、もっと広い世界へ。ボクと、一緒に。
「ボクが……行かなきゃ」
『──あなたの血肉となって、一緒にそこにいるの』
あの人の言葉が蘇る。ボクは、そっと自分のお腹に手を当てた。
ここに、兄さんがいる。ボクが食べたから。ボクが命を奪って、ボクの中に閉じ込めたから。
この心臓が動いているのは、兄さんの命が燃えているからだ。
「……だったら」
この体は、もうボクだけのものじゃない。
ボクは、兄さんの「目」にならなきゃいけない。
ボクは、兄さんの「足」にならなきゃいけない。
ボクがこの目で見て、この足で歩いて、この日記の続きを埋めていくんだ。
二人で世界を見る。それが、兄さんを食べてしまったボクにできる、唯一の――
「……贖罪、だ」
その言葉が、空っぽだったボクの中に、冷たく輝く火を灯した。
許されることはないかもしれない。幸せになる権利なんてないかもしれない。
でも、兄さんの夢を叶える道具としてなら、この汚れた命を使う意味がある。
ボクは立ち上がった。保存食と地図と、日記を鞄に詰め込む。
兄さんの日記。それが、今のボクの全てだ。
洞窟を出る。
雨上がりの森は、洗われたように澄んだ空気をしていた。
「……行くよ、兄さん」
ボクは空を見上げた。そこには、どこまでも続く青が広がっていた。
もう、迷わない。泣くことも、助けを求めることもしない。
ボクは「アスター・ライア」。
嘘をついてでも、泥を啜ってでも。星の果てを目指し続ける。
──人の皮を被った、化け物だ。
ボクは一歩を踏み出した。二度と故郷を振り返ることはなく。
まだ見ぬ空の船を目指して。
果てしない旅路へ。
履歴
卓申請テンプレート
PC名【アスター・ライア】
技能【フェンサー2,スカウト3,エンハンサー1,ダークハンター1,アルケミスト1,】
キャラ紙URL【https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?id=eFVS6G】
所持サプリ【ET,ML,MA,BM,OPB,VC,BL,AR,RL,DD,AB,BR,US,ES,TC,OTA,BIG,BIG2】
卓募集用テンプレ
GM【マヨネズ】
タイトル【】
日時【】
開催場所【空いてる場所】
形式【半テキ(時間によっては完テキ)】
参加人数【2~6人】
見学【ご自由にどうぞ!】
魔物最大Lv【】
戦闘ルール【上級戦闘】
参加締切【開始まで】
依頼書【】
依頼人【】 報酬【】
依頼内容
【】
備考
・VC必須(聞き専可)
・人数不足時はGMPCを出します
・24時以降は声を出せなくなる可能性が高いです。ご了承ください。
・GM初心者です。確認することが多くなるかと思います。
GM所持サプリ
【ET,ML,MA,BM,OPB,VC,BL,AR,RL,DD,AB,BR,US,ES,TC,OTA,BIG,BIG2】
セッション履歴
| No. | 日付 | タイトル | 経験点 | ガメル | 名誉点 | 成長 | GM | 参加者 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| キャラクター作成 | 3,000| 1,200 |
0 |
|
|
| | ||
| 能力値作成履歴#651522-3→ET式割り振り | ||||||||
| 1 | 2/1 | 『マッド・マッシュ・ラッシュ!』 | 1,370| 1,500 |
3 | 筋力 | マヨネズ
| マルセル・D・アルザス(ノルト)レイチェル・トーラス(うちす亭)ミハイ・カルバンクロ(嶺上)ロビン(蒼)シトネ(おひる)ナナ(ましろ)
| |
| GM報酬アビシャ2、pin2回。キノコ狩りに行きました。大量のキノコと、キノコ笠の蛮族。……とんでもない強さでした。もっと、強くならないとダメですね。 | ||||||||
| 2 | 2/1 | 『種モミじゃ~~』 | 1,310| 1,560 |
20 | 精神 | うちす亭 様
| マルセル(ノルト)駄作(dasaku)ミハル(ライラ)セクシーセイア(ロザーリャ)カタハ(アガワヒロ)アスター(マヨネズ)イオス(双葉)
| |
| pinは2回。種もみを守りに村へと赴きました。あと、平原を焼き払いました。 | ||||||||
| 3 | 2/2 | 『やっちゃいなよ!そんな偽物なんか!』 | 1,320| 1,460 |
21 | 器用 | うちす亭 様
| イズン(INABA)アスター(マヨネズ)ローザ(セイア)マルセル(ノルト)ミウス(クモガミ)ロビン(蒼)
| |
| pinは1回。会議に向かうギルドマスターの護衛に向かいました。途中で嫌な事もあったけれど…… | ||||||||
| 取得総計 | 7,250 | 5,720 | 44 | 3 | ||||
収支履歴
初期作成
〈ハンドアックス〉::-90*2
〈ソフトレザー〉::-150
〈巧みの指輪〉::-500
〈冒険者セット〉::-100
〈スカウト用ツール〉::-100
〈救命草〉::-30*3
〈白紙の本(日記帳分)〉::-30
〈羽ペン〉::-2
〈ハーフマント(外套付き)〉::-40
消耗品
ハニーレッドジャム::-50*3
龍樹の秘薬::-50*3
魔香草::-100*3
マテカ
緑Bカード::-20*18
緑Aカード::-200*2
武器防具
マンゴーシュ::-620
サーベル::-190
売却
ハンドアックス::45*2
装飾品
アルケミーキット::-200
スマルティエの怪力の腕輪::-900
冒険者道具(フレーバー含む)
非常食(1週間)::-50*2